アパート経営の法人化は節税効果大!最適なタイミングと注意点
「アパート経営を法人化すれば税負担が軽くなるって本当なのかな?」
「アパート経営の法人化に興味があるけど、大変そうだし不安だなあ」
「周りはみんな法人化しているけど、自分もしたほうがメリットが大きいのだろうか?」
アパート経営の規模が大きくなり、法人化に興味はありつつも「どうすればいいかわからず進められていない」という方も多いのではないでしょうか
結論からいうと、アパート経営の法人化にはさまざまなメリットがあります。中でも節税効果が高いため、所得が大きい人ほど「法人化したほうが得する」といえるケースが多くなります。
ただしデメリットもあるため、自分のなかでデメリットをメリットが上回るときにすべきといえます。

状況や目的にもよりますが、一般的には「課税所得900万円が法人化に最適なひとつの目安」となります。
この記事では、アパート経営を法人化するメリット・デメリットや最適なタイミングを解説するとともに、法人化をする場合の選択肢や知っておきたい情報を網羅的に解説していきます。
この記事を読むことで、アパート経営の法人化は単なる「節税」ではなく、それ以外のさまざまな利点があることを実感できるはずです。ぜひ最後までお読みください。
1.アパート経営の法人化とは

アパート経営の法人化とは、不動産オーナー個人が行っているアパート経営を、自ら「法人(会社)」を設立して、そちらに移管することを指します。
個人経営のままだと、利益が増えれば増えるほど所得税・住民税の負担は重くなり、最大55%にまで達します。
一方で、法人という器を活用して自分や家族に報酬を支払う仕組みを整えれば、税率を最大30%台にまで抑えつつ、世帯全体の手残りを賢く最大化できるようになります。
【アパート経営を個人で行う場合と法人化する場合の比較表】
項目 | 個人経営 | 法人経営 |
適用される税金 | 所得税(累進課税) | 法人税(ほぼ一定) |
最高税率 | 約55%(所得税+住民税) | 30%台(実効税率) |
所得の分散 | 難しい(本人に集中する) | 可能(家族を役員にできる) |
自分への給与 | 認められない | 役員報酬として払える |
経費の幅 | 狭い アパート経営に直接必要な費用のみ | 幅広い 生命保険や社宅なども含められる |
赤字の繰越 | 3年間 | 10年間 |
事務の負担 | 簡単 (確定申告のみ) | 複雑 (決算・登記など) |
このようにアパート経営の法人化は、主に税金面でメリットが大きいため、高所得層ほどお得な手段と言えるでしょう。
法人化する際の運用形態3つ |
法人化する際の運用形態としては以下3つの選択肢がありますが、本記事では、節税メリットが大きく、アパート経営を個人から法人化する際のハードルも比較的低い「建物所有型」を中心に、解説していきます。 ![]() それぞれの違いについては、5-1.運営形態:管理委託型/建物所有型/土地・建物所有型で紹介しているので、ぜひ読み進めてください。 |
2.アパート経営を法人化するメリット5つ

1章では、アパート経営を法人で行う場合と個人で行う場合の違いを簡潔にお伝えしました。
この章では、法人化が具体的にどのような利益をもたらすのか、とくに影響の大きい5つのメリットについて詳しく解説します。
アパート経営を法人化するメリット5つ 【節税対策1】所得が高いほど、法人のほうが税率が安くなる 【節税対策2】課税対象となる所得そのものを分散・圧縮できる 【資金調達】社会的信用が高まり好条件で融資を受けやすくなる 【贈与税対策】贈与税を抑えて家族に資産を受け継げる 【遺産分割】分けにくい不動産を「分けやすい株式」に変えられる |
「個人のままと法人化でどのように所得が変わるのか」「将来家族にどうやってアパート経営を引き継げるのか」など具体的な場面をイメージしながら、読み進めてみてください。
※アパート経営の法人化にはいくつかの形態があります(5.アパート経営を法人化するときに検討すべき3つの項目参照)が、ここでは最も節税効果が高い「建物所有方式(法人で物件を保有する形)」を前提に詳しく解説していきます。 |
2-1.【節税対策1】所得が高いほど、法人のほうが税率が安くなる
個人所得が高い人ほど、法人化することで、個人の所得税と法人税の「税率の差」を利用した大幅な節税が可能となります。
個人にかかる税金(所得税+住民税)には、所得が上がるほど税率が高くなる累進課税制度が採用されています。所得が低ければ税率は15%ですが、所得が増えるごとに税率が高くなり、最大で55%もの高い税率が課されてしまいます。
【個人の税率(所得税+住民税)】
所得税 | 住民税 | ||
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 | 税率 |
195万円未満 | 5% | 0円 | 10% |
195万円~330万円未満 | 10% | 97,500円 | |
330万円~695万円未満 | 20% | 427,500円 | |
695万円~900万円未満 | 23% | 636,000円 | |
900万円~1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 | |
1,800万円~4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 | |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 | |
一方、地域や所得によって異なりますが、法人税の実効税率は最大でも30%台です(東京都の中小法人の場合で最大約33.6%)。
どれほど利益が出ても個人の所得税率(最大55%)のように跳ね上がることがないため、所得水準が高いほど、個人で納税するよりも法人として納税するほうが手元に残る現金を確実に増やすことができます。
【法人の実効税率(中小法人・東京都の場合)】
年間の利益(所得) | 実効税率(概算) |
課税される所得金額 | 税率 |
400万円以下 | 21.366% |
400万〜800万円 | 23.173% |
800万円超(※法人税額が年1,000万円以下の場合) | 33.583% |
2-2.【節税対策2】課税対象となる所得そのものを分散・圧縮できる
アパート経営を法人化することで、課税対象となる所得そのものを「分散・圧縮」できるのも大きなメリットです。
個人経営ではアパートの利益はすべてオーナー1人の所得として加算されますが、法人であれば利益を「役員報酬」として家族に分散したり、個人では経費にできない費用(役員報酬や保険料など)を経費にしたりして、合法的に利益を減らすことができます。
さらに、アパート修繕などで発生した大きな赤字を最大10年間繰り越せるなど、長期にわたって「利益が出ても圧縮できる仕組みを維持しやすくなります(青色申告を選択した個人事業主の場合は最大3年間)。
法人化することにより所得を分散・圧縮できる例
|
アパート経営を個人ではなく法人化することで、個人よりも所得(利益)を減らす手立てが増えるため、結果的に税金を減らすことが可能となります。
2-3.【資金調達】社会的信用が高まり好条件で融資を受けやすくなる
アパート経営を法人化することで金融機関からの社会的信用が高まり、融資の審査に通りやすくなるメリットもあります。
法人は登記によって公的に存在が証明されており、さらに決算書の作成が義務付けられているため、個人事業主よりも信頼を得やすくなります。
同じ事業規模であっても、法人格があることで「継続的な事業体」として認識され、新規の融資獲得や、より好条件での借り入れがしやすくなります。
将来的にアパートの物件数を増やし、資産を拡大していきたいと考えているオーナーにとっては大きなメリットとなるでしょう。
2-4.【贈与税対策】贈与税を抑えて家族に資産を受け継げる
アパート経営を法人化することで、役員報酬などの仕組みを活用して、贈与税を抑えながら効率的に次世代へ資産を移転できます。
個人でアパートを所有している場合、子供に資金を移そうとすれば年間110万円を超えた分に「贈与税」が課されます。しかし法人から役員報酬や給与、退職金支払いなどの方法で支払うことが可能です。
個人の生前贈与では、年間110万円を超えると贈与税が課せられます(相続時精算課税制度を利用しない場合)。しかし、法人から「適正な役員報酬」として支給される分については、労働の対価とみなされるため、原則として贈与税はかかりません。
このように「贈与」ではなく「報酬」にすることで、贈与税の負担を抑えて節税することが可能です。
法人化という形をとることで、大切な資産を「税金による目減り」を最小限に抑えながら、計画的に家族に受け継ぐことが可能になります。
2-5.【遺産分割】分けにくい不動産を「分けやすい株式」に変えられる
アパート経営を法人化しておくことは、次世代へのスムーズな資産承継においても有効な手段となります。
個人でアパートを所有している場合、一つの建物を物理的に切り分けることはできず、相続人が複数いると不平等感やトラブルが生まれやすいという問題があります。
法人化して物件を会社所有にすれば、相続対象が不動産そのものではなく「会社の株式」に変わるため、1株単位で平等かつ正確に分け合えるようになります。
アパート経営を法人化することで相続しやすくなる例
|
法人化によって、相続対象を「分けにくい不動産」から「分けやすい株式」へ形を変えておくことで、大切な家族の間に不必要な争いを起こさせず、円満に資産を引き継ぐことが可能になります。
3.アパート経営を法人化する5つのデメリット

2章でアパート経営の法人化のメリットを確認しましたが、法人化には良い面だけではなく悪い面ももちろん存在します。
ここでは、法人化を検討するうえで知っておきたい具体的なデメリットについて、5つのポイントで解説します。
アパート経営を法人化する5つのデメリット 【設立・廃業コスト】設立・廃業に費用がかかる 【固定負担】赤字でも法人住民税・社会保険料が発生する 【事務手続き】決算・申告や登記更新の負担が大きくなる 【資金の制約】アパートの賃貸収入を自由に使えなくなる 【譲渡所得の税金】長期譲渡の場合の税率が高くなる |
法人化にあたっては、個人経営のときには存在しなかった「法人という組織を維持するためのコスト」や、法律による厳格な制約が生まれます。
前述したメリットが今回説明するデメリットを上回るときに、法人化の価値が生まれます。アパート経営が赤字になった時のリスクや、将来の売却までをシミュレーションしながら読み進めてみてください。
3-1.【設立・廃業コスト】設立・廃業に費用がかかる
アパート経営を法人化することのデメリットとしては、会社設立・廃業にそれぞれ相応の費用がかかる点が上げられます。
個人事業主であれば、開業も廃業も税務署へ届け出るだけで費用はかかりません。しかし法人の場合は、厳格に法的な手続きがあるため、まとまった費用がかかります。さらに会社を畳むのにもお金がかかるのが特徴です。
【設立・廃業費用の違い】
比較項目 | 個人経営 | 法人化(株式会社) |
設立費用 | 0円 |
別途、実印を作る費用(1万円程度)も発生 |
廃業費用 | 0円 |
|
法人化することで、個人では不要なコストが強制的に発生してしまう点は、慎重に検討すべき大きなマイナス面といえます。
3-2.【固定負担】赤字でも法人住民税・社会保険料が発生する
個人経営の場合、アパート経営が赤字であれば住民税や所得税はかかりませんが、法人化するとかならず発生する固定費の負担が重くのしかかります。
法人化すると法人住民税の均等割が毎年課税されます。この均等割は所得に関係なく発生し、たとえ利益がゼロや赤字であっても、法人の規模やエリアに応じて最低でも毎年約7万円〜納税しなければなりません。
また、法人化して役員報酬を支払う場合には、社会保険料の支払いも発生します。
【赤字のときの固定費の比較】
比較項目 | 個人経営 | 法人化(株式会社) |
赤字のときの 税金 | 0円(所得税・住民税) | 約7万円(法人住民税の均等割)は赤字であっても発生 |
社会保険料 | ー | 役員報酬の約3割(※) |
※役員報酬の約3割となり、保険料の半分を会社が負担します。もう半分は個人が負担します。
本業の給与があるサラリーマンの場合、法人から支払う役員報酬が本業の給与と合算されるため、結果として社会保険料が大幅に上がり、本業の「手取り」が減ってしまう可能性があるので注意しましょう。
3-3.【事務手続き】決算・申告や登記更新の負担が大きくなる
アパート経営を法人化すると、個人の確定申告とは比較にならないほど、事務作業の難易度とボリュームが大きくなります。
個人経営の場合は簡易的な帳簿付けでも申告が可能であり、会計ソフトなどを使ってオーナー自身で完結させることも可能です。しかし法人の会計ルール(複式簿記)は極めて厳格で複雑なため、専門知識が欠かせません。
多くの場合、顧問税理士の依頼が必要となり、年間30万円~60万円程度の報酬が固定費として発生します。
さらに決算・申告以外にも、役員変更登記(数年ごとの登記が必須)やアパートを法人名義に切り替える事務作業(登記や振込先の変更、賃貸契約の巻き直し、保険や銀行の手続きなど)が発生します。
法人化することで膨大な事務作業が発生し、外注を余儀なくされるケースが多いことも理解しておく必要があります。
3-4.【資金の制約】アパートの賃貸収入を自由に使えなくなる
個人で行っていたアパート経営を法人化すると、賃貸収入を自由に使うことはできなくなります。
個人経営であれば、家賃収入から経費を引いた手取り収入は、すべてオーナーが自由に生活費や趣味などに使うことができます。しかし法人の場合、オーナーと会社は「別人格」であり、手取り収入はいったん「会社の剰余金」としてプールされるため自由には使えません。
会社の剰余金を自分の収入にするには「役員報酬」という形をとる必要があります。役員報酬は一度決めると年度内は自由に変更できないため、急な個人的支出(教育費や冠婚葬祭など)が発生しても、法人口座から補填することはできません。
個人事業のときと同じ感覚で会社の剰余金をプライベートに使ってしまうと、たとえ自分一人の会社であっても「業務上横領」と判断される場合があるので注意が必要です。
3-5.【譲渡所得の税金】長期譲渡の場合の税率が高くなる
アパートを売却して利益(譲渡益)が出た場合の譲渡所得の税率は、長期譲渡の場合(物件を5年を超えて保有したのち売却した場合)、個人よりも法人のほうが高くなってしまうデメリットがあります。
個人の場合、物件の保有期間が5年を超えると「長期譲渡所得」となり、税率が約20%まで大幅に引き下げられます。しかし法人の場合は、保有期間による税率の優遇措置がなく、他の所得と合算して通常の法人税(実効税率は規模などにより20%台〜30%台)が課されます。
つまり、長く大切に保有した物件ほど、個人で売るよりも法人のほうが税負担が重くなるという逆転現象が起こります。
【保有期間が5年を超える物件の売却益(譲渡所得)にかかる税率の比較】
比較項目 | 個人経営 | 法人化した場合 |
適用される税金 | 譲渡所得税(分離課税) | 法人税等(総合課税) |
実効税率(目安) | 約20.315% | 20%台~30%台(※) |
保有期間による優遇 | あり(5年超で大幅減) | なし(期間に関わらず一定) |
※法人の実効税率は、法人の規模や所得、エリアなどの要因で変動します。
※短期譲渡所得(5年以内の売却)の場合は、個人の譲渡所得の税率39.63%よりも安くなります。
将来の売却までを見据えた場合、長期保有を前提とするオーナーにとっては、法人化が税務上のデメリットになる可能性があります。
4.法人化のタイミングは課税所得900万円が目安

ここまでアパート経営を法人化する場合のメリットとデメリットを具体的に見てきました。
次に気になるのは「自分は結局法人化すべきなのか?」「どのタイミングで法人化に踏み切ればいいのか?」という判断基準ではないでしょうか。
状況によってベストなタイミングは異なるものの、「課税所得900万円を超えたとき」というのが一定の目安となります。
その理由は、個人での課税所得が900万円を越えてくると、法人の場合の実効税率の方が低くなるからです。このタイミングで法人化すると、大きな節税効果を期待できます。

なお、税理士や公認会計士によっては、「課税所得700万円から法人化メリットがある」としているケースもあります。しかしながら、社会保険料の負担なども考えると、やはり課税金額700万円〜900万円までは法人化すべきかどうかはケースバイケースといえるでしょう。
さらに課税所得が1,000万円を超えてくると法人化しないデメリットの方が大きくなるといえます。
気になる方は自分の場合の法人化メリットはどのくらいあるか、税理士や公認会計士などに相談してみると良いでしょう。
5.アパート経営を法人化するときに検討すべき3つの項目

前章では、ご自身の状況に照らして「法人化のタイミング」を見極める基準を整理しました。最適な時期を判断した後は、いよいよ「どのような法人を作り、どう資産を移すか」という実務的な設計図を描く段階に進みます。
この章では、ご自身に合った法人化を成功させるための具体的な項目として、以下のテーマを扱います。
アパート経営を法人化するときに検討すべき3つの項目
|
アパート経営の法人化において、選ぶべき正解は、資産規模や相続への考え方によって異なります。ご自身の状況に合わない選択肢を選んでしまうと、得られるはずだった節税メリットを逃してしまう羽目になりかねません。
さまざまな選択肢の中からベストな選択の組み合わせを選ぶことが、法人化を成功させる重要なポイントとなります。
5-1.運営形態:管理委託型/建物所有型/土地・建物所有型
アパート経営の法人化をする場合の運営形態には、「管理委託型」「建物所有型」「土地・建物所有型」の3つがあります。
アパート経営を法人化する際は、節税効果と初期コストのバランスが最も優れた「建物所有型」を軸に、自身の状況に合った方式を選択することが重要です。
※本記事では、主に「建物所有型」を想定して、法人化のメリット・デメリットを解説してきました。
【管理委託型/建物所有型/土地・建物所有型の簡易比較表】
比較項目 | 管理委託型 | 建物所有型 | 土地・建物所有型 |
仕組み | 個人が管理料を法人に支払う | 建物のみ法人名義にする | 全てを法人の所有にする |
所得税の節税 | 限定的(管理料のみ移転) | 高い(家賃全額を移転) | 最も高い |
相続税対策 | 低い(資産は個人のまま) | 高い(建物分を圧縮できる) | 最も高い |
初期コスト | 低い(名義変更なし) | 中程度(建物の登記費用など) | 非常に高い(土地の税金もかかるため) |
注意点 | 高すぎる管理料は税務署の指摘対象になりえる | 土地所有者(個人)への地代設定が必要になる | 移転時の譲渡益税が重くなるリスクがある |
こんな人に最適 | まずは手軽に法人化したい | バランスよく節税や所得分散をしたい【おすすめ】 | 潤沢な資金を投入して相続対策したい |
※実際の税効果は所得水準・借入状況・物件規模等によって異なります
ご自身の資産規模や管理の手間のほか、「まずは手軽に始めたい」のか「コストをかけてでも本格的に節税したい」のかというスタンス、そして「毎年の所得税を抑えて手残りを増やしたい」のか「将来の相続税を最小化したい」のかなどの優先順位によって、最適な運営スタイルは異なります。
まずはこの比較表で方向性をイメージし、具体的な数字については専門家のアドバイスを受けながら、納得のいくプランを練り上げていきましょう。
5-2.資産の移転方法:売却/現物出資/賃貸借(サブリース)
アパート経営の法人化において、個人から法人へ物件を移す際は「売却」「現物出資」「賃貸借(サブリース)」の3つの選択肢から、自身の目的に合ったものを選ぶことが重要です。
移転方法によって、法人が用意すべき資金の有無や、将来発生する相続税の負担額が大きく変わるからです。
たとえば「売却」は手続きがスムーズな一方で、個人に現金が戻るため相続税の節税効果が薄れるという弱点があります。一方の「現物出資」は、物件そのものを会社の資本金とするため節税効果が高い一方で一定の要件が課せられており、専門家のサポートが不可欠です。
【売却/現物出資/賃貸借の比較表】
比較項目 | 売却 | 現物出資 | 賃貸借(サブリース) |
仕組み | 法人が個人から物件を買い取る | 物件を資本金として会社へ入れる | 個人が法人へ物件を貸し出す |
手元資金 | 必要(法人が購入資金を確保) | 不要(物件そのものが出資対象) | 不要(名義変更も不要) |
相続税対策 | 低め(個人に現金が残るため) | 高い(物件が株に置き換わる) | 低い(物件が個人のまま残る) |
所得税節税 | 高い(家賃を法人の売上にできる) | 高い(家賃を法人の売上にできる) | 限定的(オーナーに所得が残る) |
手間・簡単さ | 比較的スムーズ(規制が緩い) | 非常に煩雑(専門家の証明などが必要) | 非常に簡単 |
こんな人に最適 | 着実に資産形成したい | 資金を抑えつつ相続対策もしたい | まずは形だけ法人化したい |
「節税を最大化したいのか」「できるだけ手間を掛けずに法人化したいのか」など優先順位を明確にしたうえで、専門家に相談することをおすすめします。
5-3.会社の種類:合同会社/株式会社
アパート経営の法人化にあたって設立する会社の種類は、「合同会社」か「株式会社」の2つの選択肢から、自身の経営方針に合わせて決定します。
アパート経営の法人化でこの2つが選ばれるのは、出資者が負う責任が「有限」だからです。出資者の責任は出資額までと限定されており、個人の資産を守ることができます。
「合名会社」や「合資会社」は、万が一の際に個人の全財産で責任を負わなければならない「無限責任」のリスクがあるため、アパート経営には適しません。また、かつて存在した「有限会社」は現在新設できないため選択できません。
【会社の種類(合同会社/株式会社)の比較表】
比較項目 | 合同会社 | 株式会社 |
概要 | 維持コストと事務負担を抑えて節税したい場合に最適 | 信頼度を重視する場合や、相続・承継のしやすさを優先したい場合に最適 |
メリット |
|
|
デメリット |
|
|
こんな人に最適 | プライベートカンパニーとして、維持コストと事務負担を抑えたい場合に最適 | 将来的に物件を増やして、金融機関や取引先からの信用を最大化したい場合に最適 |
小さく始めたいならば合同会社、信頼性を担保したい場合や相続対策ならば株式会社など、ご自身の状況に応じて選びましょう。
6.アパート経営の法人化で知っておきたいQ&A

ここまでアパート経営の法人化の仕組みやタイミング、ベストな選択肢の検討などをしてきました。ここからは、多くの方が悩まれるポイントをQ&A形式でまとめました。
いざ実行に移そうとすると「ローンの扱いどうする?」「役員報酬の額ってどう決めるの?」といった、実務上の疑問が次々と湧いてくるものです。
検討を形にするための最終チェックとして、ぜひお役立てください。
6-1.【質問】ローン残債があっても法人化できるの?
【答え】可能です。ただし、銀行の承諾を得た上で、法人がローンを引き継ぐ(あるいは新規で組む)手続きが必要です。
ローンが残っている物件でもアパート経営の法人化はできますが、法人が個人から不動産を買い取る形式をとるため、金融機関による改めての審査や手続きが必須となります。
法人化のタイミングで個人から法人で売買契約を結ぶことになり、登記費用や不動産取得税などの諸経費が発生します。あらかじめ金融機関へ相談して、必要な手続きや発生するコストを確認した上で、資金計画を立てて進めることが重要です。
6-2.【質問】役員報酬の金額はどう決めればいいの?
【答え】税金・社会保険料・融資審査の3つのバランスを考慮し、法人の利益と個人の所得のバランスが最適になる範囲で決定するのが正解です。
アパート経営の法人化においては、役員報酬を「売上の◯%」といった画一的な基準で決めるのはおすすめできません。不動産経営は物件ごとに経費や返済比率が異なるため、外側の数字よりも「世帯全体の手残りをどう最大化するか」という内側の視点が重要だからです。
無理な節税で社会保険料を膨らませていないか、そして将来の投資計画に支障がないかという複眼的な視点で、自身の状況に合わせた「納得感のある金額」を導き出すことが大切です。
役員報酬の決定は「あちらを立てればこちらが立たず」という複雑なパズルに近い側面があるため、判断が難しい場合には税理士への相談をおすすめします。
6-3.【質問】資本金はいくらにすればいいの?
【答え】税負担を抑えるなら「1,000万円未満」に設定するのが良いでしょう。
アパート経営で法人化する場合、資本金は法律上は1円からでも可能なので、いくらに設定するか迷う方も多いでしょう。結論からいうと、資本金が1,000万円を超えると法人均等割が7万円から20万円になって負担が増えるため、1,000万円未満がおすすめです。
ただし資本金が少なすぎると、設立直後に会社が資金不足に陥り、オーナー個人から会社にお金を貸し付ける手間が発生してしまいます。実務上は初期費用や数カ月分の運営費を賄える金額を設定するのが良いでしょう。
アパート経営法人化のタイミングで、管理会社を見直しませんか? |
アパート経営の法人化は単なる「税金対策」ではなく、資産をより効率的に守り育てていくための大きな転換点となります。 物件名義を個人から法人へ移して、管理委託契約も新法人名義で結び直すことになるこのタイミングこそ、「いまの管理会社が本当にベストか」を改めて比較検討すべき絶好の機会でもあります。 「新法人として、より高い収益性を目指せるパートナーを探したい」 「まずは現在の管理条件が妥当かどうか、他社と比較してみたい」 という方は、ぜひ、ぜひ一括で問い合わせできる「いざ貸す」をご活用ください。 「いざ貸す」は、10年以上の運営実績があり、累計11万人超が利用する賃貸査定サイトです。特定の管理会社を推薦するのではなく、中立的に不動産会社を比較できるサービスとなります。 提携している650社以上の不動産会社の中から、オーナー物件の条件に応じて最大6社の厳選された会社から提案が届くのが特徴です。 オーナー様は完全無料で利用できますので、安心してお気軽にお問い合わせください。 \ 最大6社を比較するから最適な会社が見つかる / ![]() |
7.まとめ
本記事では「アパート経営の法人化」について解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめておきます。
◆アパート経営を法人化するメリット5つ
【節税対策1】所得が高いほど、法人のほうが税率が安くなる
【節税対策2】課税対象となる所得そのものを分散・圧縮できる
【資金調達】社会的信用が高まり好条件で融資を受けやすくなる
【贈与税対策】贈与税を抑えて家族に資産を受け継げる
【遺産分割】分けにくい不動産を「分けやすい株式」に変えられる
◆アパート経営を法人化する5つのデメリット
【設立・廃業コスト】設立・廃業に費用がかかる
【固定負担】赤字でも法人住民税・社会保険料が発生する
【事務手続き】決算・申告や登記更新の負担が大きくなる
【資金の制約】アパートの賃貸収入を自由に使えなくなる
【譲渡所得の税金】長期譲渡の場合の税率が高くなる
◆法人化のタイミングは課税所得900万円が目安
◆アパート経営を法人化するときに検討すべき3つの項目
運営形態:管理委託型/建物所有型/土地・建物所有型
資産の移転方法:売却/現物出資/賃貸借(サブリース)
会社の種類:合同会社/株式会社
◆アパート経営の法人化で知っておきたいQ&A
【質問】ローン残債があっても法人化できるの?
【質問】役員報酬の金額はどう決めればいいの?
【質問】資本金はいくらにすればいいの?
アパート経営の法人化はゴールではなく、新しい経営のスタートです。どのような法人にするか、自分の目的に合った法人化の最適解を見つけていきましょう。
Author
河上 隼人 HAYATO KAWAKAMI
株式会社エイムプレイス 代表取締役
1980年11月8日生まれ 広島県出身
インターネットメディア事業「いざ貸す」を運営し、不動産オーナーと不動産会社をつなぐ架け橋として活動。効率的で自由度の高い経営スタイルを追求しながら、自らも日々学び続けている。

